らくだの足あと18歩目 2025.12.17
目次
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取り残されようとしている土地とHIPHOP ー福島県浪江町StudioB-6とコウド舎
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『THE MOVING』。染み込む言葉と人ひとり分の人生
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お知らせ・交歓交換
取り残されようとしている土地とHIPHOP。—福島県浪江町 Studio B-6 とコウド舎
STUDIOB-6
福島県浪江町、A面ではないB面を響かせるお祭りへ
11月1日の0時半。私たちは前橋の、高速を降りてすぐのホテルに到着した。5時間後。起きて運転を開始。目的地は福島県の浪江町だ。
午前9時過ぎ。目的地までもう少し。福島県富岡町を通過していた時だった。運転席の智史が言った。「えっ待って、なんか今避難指示みたいな通知が見えた気がする。確認できる?」急に、背筋がヒヤリとする。慌ててスマホを確認する。緊急速報の通知が来ていた。
緊急速報 訓練】避難行動情報(訓練の広報です。こちらは富岡町です)
「訓練だって。位置情報で来るようになってるのかも」。「訓練」の2文字に安堵するも、ここに住む人たちは、「福島第二原子力発電所4号機で重大な事故が発生する」ことに、いつも備えているのか……。
その日の午後、通知がまだ残っていたので撮ったスクショ。背景はドラえもん
少し走ると、黄色の看板が視界の端を通り過ぎた。
「通行制限中 この先帰還困難区域につき通行止め」。
銀色の柵。少し走るとまた道の真ん中に看板があり、また少し走ると同様の看板が立っている。看板のそばに軽トラがずらりと並んでいるところもあった。おそらく、草刈りだろう。
柵の内側にメガソーラーの太陽光パネルがずらりと並ぶ光景も目にした。なるほど、人間は入ってはいけないが、太陽光を集めるには問題がない。草刈りをしなくても良いから、こんなふうにメガソーラーの発電所として使われているのか。東京電力がやっているのだろうか……?
この地域の日常の風景。日常の生活のことを、ほんの少しだけ想像する。
天気のせいか、目につくのがまっすぐに伸びるアスファルトの広く綺麗な道路だからなのか。午前10時過ぎにたどり着いた浪江町の第一印象は、灰色の街、だった。灰色の街に、ポトリと落とされたように、木造の長屋が建っていた。道と道に挟まれた不思議な立地。ここが私たちの目的地、「StudioB-6」だった。中に入ると大きな窓から、明るい日差しが降り注ぐ開放的な空間が広がっている。若者たちがガヤガヤと準備をしているようだった。
私たちがここを訪れたのは、「B-side FES」というイベントのブックマルシェに出店するためだった。その主催であり、会場となったのが「StudioB-6」という名前のコワーキング&コミュニティスペースだ。ブックマルシェは、B-6に入居する本屋「コウド舎」のなるみさんが企画したもので、私たちに共通するもの、共鳴するものがある気がすると言ってくださり、遠いですがダメもとでお誘いします、とお誘いくださったのだった。
そもそもこのフェス、B-6で開催されている2つのサークル的な活動①「バルブシックス(Bulb-6 ZINE gathering」(ZINEをつくる集まり)、②「クラブシックス」(DJ練習会)がイベントするぞ!と盛り上がり、なるみさんはなるみさんで、じゃあ私ができること、やりたいことはブックマルシェだ!とブックマルシェを企画。それぞれが自発的にやりたいことを持ち寄って開催されたイベントなのだという
バルブシックス https://www.instagram.com/bulb6_zine?igsh=anhoOHBzNWtuOXZtクラブシックス https://www.instagram.com/club6_podcast?igsh=MjQyMG91M2Rwemlmコウド舎 https://www.instagram.com/ko_do_sya_namie?igsh=eXZmOWlweWl2ZHFu
B-6の中にはコウド舎の本たちがずらりと並んでいた
イベントのコンセプトコピーは「KDIY=勝手に できること いっぱい やっちゃう」。
サークルの子たちや来場者は20代が中心なのかなという印象。今を楽しもうぜウェーイ!、というような、心閉ざし気味の時の私なら心の内に引きこもってしまいそうだったけれど、実際にはなぜか、苦手だなァと思うことはなかったので不思議だ。
B-side FESは、その成り立ちから、当然のことながらコミュニティ内での盛り上がりが中心にあるイベントだった。けれど、そこに攻撃性がないというか、フラットな雰囲気も確かにあった。中に入れるわけではなく、入る必要もない。ここではこんな人たちが集って活動しているんだなと眺めれば良い。居心地は、悪くない。
「勝手にやる」ことを大事にすると、排他性は低くなるのかもしれない。私が歳をとって、場に無理に入らなくても良いと思える精神を確立できた、という内面的理由もあるかもしれない。ことり(娘)というレイヤー違いの存在と一緒にいることで、私も必然的に別レイヤーに存在できただけかもしれない。
「個人によるコミュニティづくり」。文面だけではわからなかった切実さ
StudioB-6のオーナーは、浪江町出身の建築家・渡部昌治さん(マサさん)。この場所を、既存の枠組みで説明することはきっと難しい。だから、マサさん自身が説明する文章をそのまま載せてみる。
Q. STUDIOB-6とは?A. この建物自体は、東日本大震災のときに建てられた木造仮設住宅です。本宮市の恵向公園仮設住宅団地に建設された応急仮設住宅をここ浪江に移設再利用して、自分の場所と、半分くらいをパブリックに使ったりしながら、拠点のようなかたちで運営しています。
ぼくは浪江町出身で、この建物が浪江町の方々が入居していた仮設住宅だったこともあり、場所の記憶といったような、震災時だけにあった時間みたいなものをずっと残しておきたいという想いがありました。
現在の浪江町では多くの住民が避難先での生活を変えることが難しく、まちに戻らないという判断をしています。そのため、多くの家屋が解体され、この辺りは震災前とはまったく違った風景になっています。また、これから駅前の再開発や国の研究機関の建設などが待っています。そこで小規模ではあるのですが、「民間」というよりほぼ「個人」によるコミュニティづくりや場づくりの拠点となるような建築を構想し、建設もなるべく自分で行い、隅々まで意識が行き届くような場所を目指しています。
私は浪江町に向かうにあたり、このインタビューを拝読してから向かったのだが、その時は結局StudioB-6ってコワーキングスペースってことかな、という浅はかなイメージを持つに留まった。
ここで語られていたマサさんの言葉ーー「民間というよりほぼ個人によるコミュニティづくりや場づくり」が意味すること。なぜこの場所を作りたかったのか、なぜ切実にここが必要だったのか。それはやはり、この場所に行って、ここで生活する方々の言葉を受けて、初めて腑に落ちたことだった。
左下の「B-6」の文字は仮設住宅として使われていたナンバープレートをそのまま使っている
元青田クリーニングの不思議な空間。すぐ近くに立ち並ぶ新しい施設群
B-side FESは、2つの会場で行われた。StudioB-6では、ZINEフェスが行われ、DJが時間帯ごとに入れ替わりながら音楽をかけた。いくつかのワークショップがあり、特別出店のランチ、コーヒーなどのドリンクなども提供された。もう一つの会場が、私たちが出店していた方で「青田クリーニング店」という元クリーニング屋、というか外観ぱっと見は、どう見てもクリーニング屋だった。中に入ると変な場所に変な配線があり、床に唐突に突起もある。どこに何があって、どう使っていたのだろうと想像せずにはいられない。
元青田クリーニング店の窓ガラスには1枚だけ、ポストカードのフライヤーが貼られていた。店前の道路の縁石沿いに、小さな立て看板がひっそり立ち、ここが会場であることを知らせていた。
内心、この掲示だけで、初見でこの会場に気づくのは難しいのでは……!と気になったけれど、一番大変なのは運営者の皆さんだし、初日でバタバタしている空気も感じていたので、余計なことは言わないことにした。それに翌日には、この謙虚さ、うっかり、ひっそりしたかんじも良いなと思い直していた。
ブックマルシェはこんな感じだった
1日目、ゆるやかに、ブックマルシェは始まった。マルシェ開始の時刻は、一応11時だったけれど、うちのブースが整ったのは12時過ぎ。それでもあまりみんな気にしていない。それぞれがずっと会場にいなくても良いように・・・と会計は一箇所、というのも初めての形式だったけれど、自然とみんなで協力し合う雰囲気が生まれて、これも良いかたちだな〜と思った。らくだ舎は新刊本が多いので、スリップに店名を記載しておらず、ブロックふせんに書き殴るかんじになったけれど、それはそれでご愛嬌というものだ。
私は基本的に、ことりと過ごす担当である。おしっこ!ということりとともにB-6会場に行くと、ちょうどランチセットの販売が始まったところだった。クオリティに対して値段がやさし過ぎるサンドイッチとクラムチャウダーのセットをいただく。大きな窓が並ぶB-6は、日差しがガンガン差し込んで、自然光で驚くほど明るく、直射日光が当たるテーブルは暑かった。隣のZINE フェス会場も盛況のようだ。
しばらくして、やはり、ことりが飽きてきた。近くに公園など遊べる場所がないかGoogleマップで検索する。すると、歩いて1分、B-sideFESの臨時駐車場にもなっている公共施設「ふれあいげんきパーク」なるものが、屋内アスレチック施設であることが判明した。さっそく、ことりと、同じくブックマルシェに出展していた方の子どものNくんを連れて施設へ行ってみた。
ふれ合いセンターなみえとタイニーハウス
駐車場を挟んで、ピッカピカのどでかい施設が立ち並んでいる。左は高齢者福祉施設、右が子ども連れ親子のための施設ふれあいげんきパーク、正面奥に図書館などが入った複合施設、ということのようだ。奥には、スノーピークのおしゃれなタイニーハウスが2軒立っていた。このタイニーハウス、入り口にあった小さな看板によると、誰でも自由に使えるワークスペースのようだ。残念ながら土日は休みだった。名称には「cafe」とも書かれているが、平日はカフェも営業しているのだろうか。いや、どうも、もうカフェ営業はしていなさそうな雰囲気だ。きっとなんらかの経緯があり、ここに寄贈されたものなのだろうと想像した。土日休みの平日のみのコワーキングスペース、使う人はいるのだろうか。だいぶ、ひっそりとした雰囲気が漂っているけれど。
ここに書くにあたり、あまりに適当なことも書けないなと調べてみた。jyubako cafeなるこの建物、Instagramとsnoepeakのリリースによれば、2023年にテイクアウトできるカフェとして開店するも、2024年後半にかけて休業のお知らせがたびたび多くなり、営業日も少なくなっていた。移転のため2025年1月から休業、4月再開予定と書かれていたが、Instagramはその後更新されていない。おそらく人員確保ができず、売り上げも大きくはなく、カフェ営業を続けることができなくなった末、とりあえずコワーキングスペースとして利用しているのだろうと想像する。
そこに当事者がいない、イメージによる地域活性。きっとうんざりするほど、全国に事例があると思う。いや、企画時に住民の方だって、関わってはいたのかもしれない。外からのできることをしたいという思いをちゃんと受け取り、じっくり考えて中からやりたいことを提示し、擦り合わせて、本当に必要な形に変えることは案外難しい。都市と地域に人口の偏りがある以上、思いを受け取る人が不足していることもあるだろうし、発案者の方が、最初の時点では考えに強度があるのは当然だろう。言われてみればそういったものも必要かもしれない、断るようなものでもないし…と計画をそのまま進めていくこともあるだろう。熱意を伝えることには存外時間がかかるはずだが、とくに組織では「年度予算」「年度または短中期目標」に行動が縛られてしまいがちでもある。
子連れ出店サポート施設「ふれあいげんきパーク」のありがたさと違和感
ふれあいげんきパークは、すごい、としか言いようのない施設だった。ボールプールや、滑り台を擁するものすごく立派なアスレチック、ポヨンポヨンとはねて遊ぶ、白く小高い丘みたいになっているトランポリン。三輪車で遊ぶ場所が別にあって、キッチンとパン屋のおままごとコーナー、積み木、パズル、ゲームで遊べるコーナー、絵本コーナー、木のおもちゃコーナーなどもある。立派なボルダリングルームもあり、習い事として通えるスクールにもなっているようだった。屋内はクリーンで管理された空気で満ちていた。職員の方は5人くらいいて、皆さんとても親切だった。・・・これが無料か〜。
私たちが訪れた土曜日の午後13時過ぎ、施設にいた親子は、私たちの他に5組ほど。白い丘みたいなトランポリンだってほぼ貸切で遊べる。同様の設備を、どこかのイオンの遊び場と福岡のアンパンマンミュージアムで見たけれど、20〜30人の子供が群がっていて、ぶつからないように遊ぶのは大変だった。
ふれあいげんきパークで、トランポリン貸切状態で遊ぶことりとNくん
ことりとNくんははしゃぎ回って、何度も何度もアスレチックを縦横無尽に遊び回り、トランポリンに行って盛大に跳ねて転げ落ちて、を繰り返している。空いているから、ストレスなく思う存分遊べる。親としても子どもの衝突(物理的にも、精神的にも)に気を配らなくて良いので見守りがとても楽である。アスレチックに飽きたらおままごとコーナーへ、三輪車、積み木。そしてまたアスレチックへ……ふたりは永遠に遊べるようで、結局ブックマルシェが終わる直前まで、3時間くらい滞在した。
これで無料。県外からの私でも無料で良いという。どうなってるんだ。どうなってるって、復興のなにかの予算で作られて、運営されているのだろう。とってもありがたく遊んだし、ちなみに翌日もお世話になった。でも、「子育て世代がどんな天気の時でも遊びに行ける場所を作って、子育てしやすい町をアピールしよう。アスレチック施設でも作っとこう!」そんな、会議室にいる誰かが絵を描いた気配を感じてしまって、どうもむずむずするというか、なんだか怖いというか、ピカピカの施設なのに、終末を感じてしまったというか・・・よくわからないけれど、モヤっとした気持ちを持たずにはいられなかった。(お世話になったのに、真相を知らずに勝手なことを言っていてごめんなさい)
日常も関係も、積み重ねていく
B-sideFESは、夜も活気に溢れていた。マルシェは夕方に終わり、夜は基本的にDJイベントで、音楽がかかり、お酒が提供され、さまざまな紙が置いてある机が2つあり、ここでちょっとした冊子を作ったらいいよワークショップが放置されていて、みんなが勝手に過ごしていた。私は、ことりのお絵描きを見守りながら、ビールなど飲みながら、ボドゲ好きの若い子におすすめの中級ボドゲのこと、ボドゲ用語などを教えてもらった。
子連れなので、流石にちょっと早めに宿に切り上げる。この宿が最高だったことも特筆すべきことだ。B-6から歩いて2分のその宿は、居酒屋と宿と下宿屋が一体化していて、料金は前払いで、必要十分で、居酒屋のメニューがとても魅力的だった。もっと色々頼みたかった。きっとずっとここにあるのだろう古びた建物。当時はこの場所もがらんどうになり、埃が降り積もる空白の時を経ているのだろうか。どんな時間を、この建物と、ここの親父さんたちは過ごして、今ここにあるのだろう。
この日の明け方、大地震に見舞われる夢を見た。警報がなる。まずい、このタイミングで、原発に再び何かあったらことりが・・・!目覚めた時、心臓がドクドクと嫌な音を立てていた。浪江町に暮らす人たちも、こんな不安な気持ちに襲われることもあるのだろうか。そんな不安はもう感じないよう、脳が上手いことやってくれるものなのだろうか。
2日目に行われた、本屋一同によるトークイベント“とにもかくにも本屋をひらいた”
FES2日目。午前、本屋一同はトークイベントのためB-6へ。本屋が8名ずらりと並び、観客が10〜15人くらい。全員の距離が近くて、なんだか良い場、良いトークだった。B-6関係者っぽい人も観客に何人もいたので、来客が何人なのかは不明だったが、きっとそれは重要じゃなかった。終始、このイベントは、どの人がスタッフなのか、全くわからなかったのも、独特で面白かった。ちゃんと仕切ったり、責任を匂わせたりしない。出店者を変に気遣わない、同じテーブルに座っている。ことりは動画タイム、私はことりのぬいぐるみを渡され、それを腕に抱き、なでなでしながらトークを聴いた。打ち上げの時、大丈夫かなこの人と思われていた、と知った。
終了後、大熊町の「読書屋息つぎ」さんを訪問後、全体打ち上げに参加。私はなるみさん、マサさんと同じテーブルになり、この時、印象深く、大事な話をいくつか聞いた。飲んでいたので、はっきり覚えていない部分もあるので、印象として書く。
なるみさんは、浪江町の隣の隣、福島県田村市の出身だった。震災を経験したのは小学校6年生の時。原発が爆発して、浪江町など近隣地域が立ち入り禁止、帰宅困難地域となり、住民が避難を余儀なくされるなか、自分たちにはなんの変化もなかった。同じ県内なのに、全然状況が違う。そのことが、やるせなく、もどかしかった(こんなふうには言っていなかったと思う。私が受け取ったこと)。
B-6の立地について。道と道の真ん中の三角州みたいなところに建っているのは、マサさんが運転していて、ここだ、と思ったから。あそこは取り残された土地なんです、と言っていた気がする。ふれあいパークの向かい側は今から工事が始まり、2030年には広大な国の研究施設( ※)ができ、様相は随分と変わるだろう。B-6周辺だけが異質な存在になるだろう。
私が言ったのか、なるみさんが言ったのか。
上から降ってくるような復興への違和感。「日常の積み重ねしかないと思うんです」と言ったのは多分なるみさんだったと思う。会議室で誰かが絵に描いて建てる「コミュニティ施設」ではなく、民間企業が絵を描いて寄付してくれる「コミュニティを活性化する仕掛け箱」ではなく、個人からはじまる、一人ひとりの結びつきが連なっていくことで、地域になっていく。B-6はまさにそんなコミュニティだった。とんでもなく大きな力に、日常と個人が静かに抵抗し、生き様を示そうとしているのだ。
神様みたいに鎮座していたOMSBのポスター。ことりが「おむすびさんだ!」と気づいて指さしていた
小さくゆるやかではない、突然の変化が、まだこの先も、この町には訪れる。このB-6、ここに集う人たちを、私たちはこれからも知り続けることを決めた。茨城の実家からここまで車でたった2時間だ。帰省した時にきっとまたここを訪れる。
F-REIの完成イメージ図、Webサイトより。右下の道と道に囲まれた場所が、B-6の建っている場所だ
『THE MOVING』その人だけの言葉、人ひとり分の人生
B-SIDE FES打ち上げの時、なるみさんとマサさんが作っているZINE『THE MOVING』を見せていただく約束をした。浪江町の人たちに、震災のこと、この町のことを話してもらい、それを残したい。でもみんながみんな、語りたいわけじゃない。その時に思いついたのが「引越し」というテーマだったのだと。避難をしているから、浪江の人は、必ず一度はみんな、引越しをしている。間接的だが共通するこのテーマを問いかけることで、きっといろんな人の話を聞けるはずだと。
今この地域に住んでいる人って全員引越しをしているよねーー避難、復興、移住促進のさまざまな思いが重なり、複雑な文脈を帯びるこの地域を、「引越し」という切り口で見つめなおすシリーズ。
ここ双葉郡に人生のいずれかの時間、身を寄せることになった人々へ「引越し」のお話をたずねました。ここのたどってきた時間、生きている時間を垣間みる一冊。そして個々の声によってたち上がってくる、この町のまだ見ぬ立体感を期待するシリーズです。
『THE MOVING』1号2号。らくだ舎でも販売しています
『THE MOVING』は、1〜2カ月に一冊ずつ発行し全4号で完結するZINEだった。1号(0号)に綴じ器具がついており、購入者に束ねていってもらうディアゴスティーニ方式。B-side Fesで2号が出版されたところだったので、その場で仕入れさせてもらい、持って帰ってきた。この本が和歌山県で売られること、色川で誰かの手に取られることにはきっと価値があると思った。こうした本を店に並べることは、どこでもドアを設置するようなものだから。
今この地域には、属性や立場によって、あるいは思想によってまったく異なった見方が生まれている。
なんでもチャレンジできるフラットな「フロンティア」、課題先進地、時が止まったままの場所、そして「ふるさと」。わかりやすさを重視すると、文脈にのせなければいけないが、共通した文脈は作れない。複雑なことを複雑なまま差し出すために「引越し」という枠組みだけを用意して、聞き書きの本を作ったのだと思う。
話される内容は、一人ひとり、バラバラで一貫性はない。引越しというワードから連想されてくる、自然とこぼれ落ちる言葉を掬い取るような聞き書き。冒頭一人目、浪江町に帰ってきて食堂を営む70代の方の言葉が、殊更胸を打った。
このへんの人たちは、みんな被災して補償って金もらったと思うけど、歴史のない金をもらっちゃったんだよね。金には歴史がある。歴史のない金もらっちゃったから、天下ポッカとったようなバカなこと言うんだよ。(中略)ひとは大きな人と付き合うと大きくなる。ろくでもないやつと付き合うと、人なしになる。ひとは他人が大きくするもんで、どの人と知り合うかなんだよ。
一方、2番目に登場した移住して活動する方の言葉はどうも、軽く、遠くに感じられた。良い悪いということではなく、人と人の関係、しがらみ、それらは厚みにも重みにもなるのだろう。目的を持って「フロンティア」にやってきた人のお話は、わかりやすい物語にはなるのだと思う。私も移住者だから、きっとそちら側の人間だ。
人、ひとり分の人生。家々の明かりの下、一人ひとりが蠢き続けている。小さな蛍のような光が、浪江町のなか、そば、遠くへ、ふわふわと行ったり来たりして交錯する様が思い浮かぶ。
諦め、成り行き、縁、大義。ここに今自分がいるたいそうな理由を、多くの人は語らない。積み重ねてきた事実と生活の話には、しみじみとした味わいがあり、生きていくことの静かな苦しさも感じられた。良い本だった。3号、4号も必ず仕入れ、読みたいと思う。
お知らせと交換交歓
浪江町B-6メンバーが色川にやってきそうです
12月1日、コウド舎のなるみさんから嬉しいメッセージをいただいた。らくだ舎に行きたい、行きますとおっしゃってくださっていたのだが、それを現実にしてくださる企画を考えてくださったのだ。私たちの本で読書会を開き、参加者みんなで色川へ来てくださるという。恐れ多いが嬉しい・・・!まだ訪問日程は確定していないが、当初1月と言っていたが2月になりそうとのこと。
studioB-6 Instagramより。素敵なSNSビジュアル
そこで、こちらでも、『THE MOVING』の読書会を開き、来てくださる皆さんを迎えるというのはどうだろうかと考えている。お互い本を通じて少しだけ地域を知った状態で話をする、そんな実験をしてみたい。またはっきりと決まったら、お知らせしていきます。
らくラジ更新しております
ちょうど今日、『らくだ舎のきらくなラジオ2』が更新されています。テーマは巨大建造物という切り口から、集約と拡散、宗教とか権力について、といったお話です。よかったら聴いてください。そして今、ジャパンポッドキャストアワード2025の応募期間らしいです。流石に大賞を狙っているわけではありませんが、運営の誰かが気づいてリスナーになったらいいな〜とは思ったので、もし応募まだでしたら、らくラジと色川山里ラジオを!よろしくお願いします。
今週末は紀伊半島ブックマルシェへ。セルフクラファンZINEも出しました
いよいよ今週末、12/20-21は、串本町の「田並劇場」さんで、私たちも主催に名を連ねる「紀伊半島ブックマルシェ」です! 大人も子供も、クリスマスマーケットな気持ちでぜひ楽しんでもらえたら嬉しいです。誰かへの贈り物になる本を探しにきてもらったり、年末年始休暇で読む本を選んだり。個人的なことを言えば、確かにこの時期に必ず本を1〜2冊は買う、そんな習慣が20代の頃から身につきました。
昨年より出店が増えてパワーアップ。神奈川から妙蓮寺の本屋さんであり出版部を持つ生活綴方さん、ひとり出版社の三輪舎さんにもきていただき、出店とトークをしていただけることになっています。中岡さんのお話は、本を作りたいと思っている人にとって、とても刺激的な内容なのでは、と思うので、そんな方もぜひトークをお楽しみに。聞き手をらくだ舎の千葉智史が務めます。
このイベント、入場料無料で、トークも無料で聴いていただけます。でも、ゲストに来ていただくわけです。そして、本屋は薄利の世界。一般的に、運営資金は出店者が売れた分の何割かをいただくことでイベントが成立することも多いのですが、遠くまで来て出店してくださる本屋さんに来てよかったと思ってもらうためにも、また、ゲストの皆さんにしかるべき謝礼をお渡しするためにも、つまりこのイベントを健全に続けていけるものにするための試みとして、今回ZINEを作って販売することにしました。
昨年の内容をまとめ、今年の出店者情報などをまとめたものになるのですが、読み物として十分に楽しむことができますし、さまざまな本に連なる入り口にもなっていて、ただの広告、チラシみたいなものではないと断言することができます。セルフクラファンという意味合いもあり、このイベントを応援したいなと思ってくださる方、ぜひ購入で支援いただけたら幸いです。らくだ舎ネットショップ、店頭、もちろん当日、イベント後もご購入いただけます。よろしくお願いします。
いつもの発信いろいろまとめ
Radio「らくだ舎のきらくなラジオ2 」月1回くらいで更新。暇な時に聴いてください。リンクはpodcastですが、spotifyとYoutubeでも配信してます。podcasts.apple.com/jp/podcast/id1725074419
Radio「色川山里ラジオ」こちらはMCを交代交代で務めます(時折不在)。色川住民の人生を聴く番組です。https://podcasts.apple.com/jp/podcast/id1754913630
Instagram お店のこと中心に、日々のことをお知らせhttps://www.instagram.com/rakudasha/
実店舗 Coffee&Tea&Books らくだ舎OPEN:木・金・土 10:00-17:30649-5451 和歌山県那智勝浦町口色川742-2 色川よろず屋内
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